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過去の地球惑星システム科学セミナー

講演者:茂木信宏

日時:2014年10月27日(月)17:15-18:45

タイトル:「大気微粒子の動態と放射過程を解明するための理論・実験・観測アプローチ 〜光吸収量の定量的理解を目指して〜」

要旨:
エアロゾル・雲・放射相互作用は,物理学的アプローチによる気候変動予測に関わる研究の中でもフロンティアな課題の1つである.発表者が共同研究者とともに現在取り組んでいる,(1)大気微粒子の動態と, (2)大気微粒子の放射過程を明らかにするための研究を紹介する.

1. 大気微粒子の動態 放射収支に重要な粒径範囲(直径0.1 ~ 1 マイクロメートル程度)の地球大気エアロゾルの存在量や鉛直分布は,雲・降水による湿性除去の受け易さに強く支配されている.現在でも不確実性の大きな気候モデルにおける湿性除去スキームを精緻化・検証するために,バルク量(組成別質量濃度など)だけでなく,個々の粒子の物理化学特性まで議論できるような,詳細な湿性除去の観測データが必要とされている.本発表では,BC含有質量という大気中で(さらには水中でも)保存性が良い属性を粒子のトレーサーとして利用した,湿性除去効率の粒子依存性を観測する手法の開発と,その航空機・地上観測への適用事例について紹介する.

2. 大気微粒子の放射過程 光吸収性成分(BC, 鉱物粒子, 光吸収性有機物など)に起因する大気微粒子による光吸収量の定量化は,大気放射学における重要な挑戦課題の1つである.実大気中における微粒子の光吸収量とその成分別寄与を観測することは,リモートセンシングどころかin situの光吸収測定法によっても困難である.そのため,個々の粒子の光吸収量を支配する微物理特性(複素屈折率,粒径,混合状態,吸湿性など)の正しい観測(あるいは化学輸送モデリング)と,それの微物理特性に基づき光学理論によって光吸収量を計算する方法の精緻化が重要となる.BCは鉱物粒子と並び,地球大気微粒子による光吸収量を支配する物質である.BCに起因する光吸収量を精密に評価するためには,BCを含むエアロゾルや雲の光学特性の計算法や,その入力パラメータである微物理特性の観測が必要である.本発表では,BC含有粒子の微物理特性の測定法の開発状況と観測結果,さらに,気候モデルに組み込むことを想定した,BCを含んだ雲粒の光吸収効率を高速かつ高精度に近似計算する手法の開発状況を報告する.

発表者:大畑祥(近藤研D3)

タイトル:ブラックカーボンの降水除去過程に関する観測的研究 –新しい吸湿特性測定法の開発–

要旨:ブラックカーボン(BC)は、化石燃料やバイオマスの不完全燃焼によって生じる大気エアロゾルの一種である。BCは太陽光を強く吸収して大気を暖める効果を持ち、雪氷面に沈着したBCは雪の反射率を低下させることにより雪の融解を促進している。IPCC第5次報告書(2013)において、BCの地球温暖化への寄与は二酸化炭素・メタンに次いで3番目に大きいと考えられており、近年その重要性がより強く認識されているが、BCの放射効果推定には依然として大きな不確定性がある(Bond et al., 2013)。その最大不確定要因の一つは、BCの大気からの除去過程の理解が不十分なことである。放出直後のBCは疎水性であるが、大気中を輸送される過程でガス成分の凝縮や他のエアロゾルとの凝集が起こることにより、親水性の被覆を持つようになる。その結果、BCも他のエアロゾルと同様に吸湿成長して雲粒となり、降水過程を経て大気から除去される。この除去効率が大気中のBC濃度を強く支配する。しかし、BCとその被覆成分から成る混合粒子(BC含有粒子)の吸湿特性を測定する手法や、降水によるBCの除去量を測定する手法はこれまで確立されておらず、気候モデルで計算される吸湿特性や除去量の正確性を観測により検証することは不可能であった。そこで本研究では、BC含有粒子の吸湿特性ならびに雨・雪に含まれるBCの質量濃度・粒径分布を測定する新手法の開発をそれぞれ行った。本中間発表会では、前者の吸湿特性測定法の開発について発表する。  BC分析装置Single Particle Soot Photometer (SP2) は、レーザー内に導入された個々のBC含有粒子の発する白熱光と散乱光を検出し、乾燥状態のBC質量と被覆量をオンラインで測定する測定器である。本研究ではこのSP2を改造し、任意の相対湿度下におけるBC質量と被覆量を測定可能なhumidified-SP2(h-SP2)の開発を行った。エアロゾル質量分級装置(APM)と、新たに開発したh-SP2を組み合わせることにより、各BC含有粒子の吸湿成長率(乾燥粒径に対する吸湿後の粒径の比)をBC含有量の関数として測定することができる。h-SP2の評価を行うため、実験室内で発生させたBCと硫酸アンモニウムの内部混合粒子の吸湿成長率を、相対湿度60-90%の範囲で測定した。測定値はκ-Köhler理論による理論値と測定誤差内で一致し、h-SP2を用いた新しい吸湿特性測定法が実大気観測に適用可能であることが確認された。

講演者:小玉貴則(阿部研D3)

タイトル:地球型水惑星の進化と水の散逸の役割

要旨:  地球型惑星は, 恒星からの距離及びその水量によって, 大きく表層環境を変化させると考えられている. また, 惑星表面での液体の水の存在は, 生命の起源と進化において重要であると考えられている. 従来, 地球型惑星表面での水の存在は, 全球的に海洋で覆われた地球のような惑星(海惑星)が仮定され, 中心星からの放射及びその進化によって検討されてきた[e.g., Kasting et al., 1993; Kopparapu et al., 2013]. 一方で, 保持する水量が少なく, 陸水の分布が大気循環で支配されている惑星(陸惑星)の気候も検討されて おり, 海惑星に比べ, 大きな中心星放射を受け取っても, 惑星表面に液体の水を保持することができることがわかっている[Abe et al., 2011].  従来の地球型水惑星の進化に関する研究では, 中心星の光度増大に伴い, 惑星大気が湿潤になり, 最終的に大規模な水の散逸が起こるという理解である. よって, 大規模な水の散逸というプロセスは, 地球型惑星の進化において, 必然的に引き起こされることが 考えられている. 本研究では, 水の散逸による水量変化に着目することで, 水の散逸の地球型水惑星の表層環境に与える影響とその役割を明らかにすることを目的とした. 具体的には, 水の散逸による水量変化と恒星進化に着目し, 海惑星の進化経路を検討した. 海 惑星が暴走温室効果の発生の前に大規模な水の散逸を経験した場合、陸惑星へと進化することができる可能性がある. 海惑星の進化の分岐は、中心星の光度増大による暴走温室効果の発生と大規模な水の散逸の間の競合で決まるはずである.  数値計算の結果, 初期水量が0.1地球海洋水量以下の地球型惑星は, 海惑星から陸惑星へ進化する可能性があることがわかった. また, 海惑星が陸惑星へ進化した場合, 約20億年の間, 液体の水を惑星表面に維持することができることがわかった. 本研究より, 大規 模な水の散逸は, ハビタブルな世界の終わりと考えられてきたが, その期間を延ばすプロセスである可能性があると言える. また本発表では, これからの課題と計画をお話する予定である.

日時:2014年5月26日(月)16:30-18:00

講演者:高橋聡

タイトル:ペルム紀末大量絶滅事変後の海水微量元素の挙動

要旨:今から約2億5千万年前の古生代ペルム紀の終わりに、地球生命史上最大の大量絶滅が起き、その後の生命環境の回復には500万年以上の期間を要したことが知られている。この事変が起きた当時には、高一時生産を背景に大規模な貧酸素海洋が発達したこと明らかにされてきた。そのような海洋環境変動史の研究例は、主に浅海性炭酸塩岩層からなされてきたが、日本などに残る遠洋域深海性の堆積岩層も当時の地球環境変動史を知る上で重要な研究資料として注目されている。本発表では、世界で最も連続的保存性が良い深海相ペルム紀-三畳紀境界層を用いた地球化学分析の成果を報告する。  本研究の対象となるペルム紀-三畳紀境界層は、岩手県北部に位置する安家森セクション(Takahashi et al., 2009)である。このセクションから堆積岩試料を採取し、前処理した試料を用いて蛍光X線分析および誘導結合プラズマ質量分析を行った。その結果、炭素同位体比の不異常と微化石個体数の激減で特徴付けられる大量絶滅期の層準において、堆積物中のモリブデンとバナジウムの濃度が泥岩の平均組成(average value of upper continental crust; McLennan, 2001)に比べて数千倍に増加することが明らかになった。これらの事象は、大量絶滅時の遠洋域において硫化水素に富む還元的海水が発達し, 海水に溶存していた微量元素が堆積物中に除去されていたことを示すものである。さらに、これらの元素濃度を堆積速度で規格化すると、モリブデンやバナジウムの海水平均滞留時間内(80万年、5万年)に、海水中の溶存量のほとんどを消費するほどの量を堆積物中に取り込み得ることが推定された。生物必須元素として機能するこれらの微量元素が不足した海洋環境は、大量絶滅後の生態系に負の影響を与え続けた可能性がある。

講演者:小河 正基(総合文化研究科)

日時:2013年12月16日(月)16:30-18:00

場所:理学部 1号館  C棟3階 320室

タイトル:地球型惑星の進化の全体像

要旨:火星•金星•地球など地球型惑星の内部進化を支配する2大要因であるマントル対流と火山活動の数値モデルを構築した。その結果、これらの惑星の進化は、火山活動によりマントルの平均温度がソリダス温度以下に抑えられるという「サーモスタット効果」、マントルの重要な熱源である放射性元素の「地殻への濃集」、金星や地球のような下部マントルを有する惑星で起こるマントル構成鉱物の相転移を原因とする対流の脈動または「バースト」、及び「プレート•テクトニクス」の4つの素過程に基づき系統的に理解できる事がわかった。さらに、月や水星のような小型の惑星ではサーモスタット効果が十分機能しないこと、太陽系外の地球より大きいスーパー地球においては対流への断熱圧縮の効果が強く、その進化は我々の太陽系からの単純な外挿では理解できない事が明らかになりつつある。

講演者:長島佳奈 (海洋研究開発機構)

日時:2013年11月25日(月)16:30-18:00

場所:理学部 1号館 C棟3階 336室

ひと粒でわかる?石英の供給源推定〜カソードルミネッセンス分析の可能性〜

講演者:長島佳奈(海洋研究開発機構) 要旨:石英は地殻を構成する主要な鉱物であり、地球上に普遍的に存在するため、地球環境における様々な物質移動を検証する際の指標として、高いポテンシャルを持つ。その産状は多岐にわたり、SiO2という単純な組成で示されるものの、結晶成長時の温度や圧力に応じて、様々な結晶構造の変異(欠陥や転移)や不純物元素(Ti4+, Ge4+, Al3+, Fe3+など)の混入が起こっていることが知られている。また生成後に受けた温度や圧力によっても欠陥の解消や新たな生成また不純物の移動などを生じ、石英の結晶構造には、生成時だけでなく、生成後の環境に関する情報も記録される。そこで石英の構造欠陥や微量元素を調べ、石英の「生まれ」や「育ち」に関する情報を取り出せば、石英の供給源の特定や生成後の環境の復元を行うことができる。本発表では、石英の構造欠陥や微量元素の検出に基づく“ダスト”の供給源推定の取り組みについて紹介したい。 石英中の構造欠陥や微量元素の検出は、電子スピン共鳴等の様々な方法を用いて試みてきたが、これまでの方法では分析に最低でも数10mg程度の量を必要とするため、微量なダスト試料、例えば大気中、海水中、降雨中から採取されたダストや、氷床コアに含まれるダストの供給源推定には適用できなかった。そこで本研究では、新たにカソードルミネッセンス(Cathodoluminescence : CL)分析を用いて、“粒子”単位で石英中の構造欠陥ならびに不純物を測定し、アジアダストの主要な供給源である中国のタクラマカン砂漠とモンゴルのゴビ砂漠の細粒石英の特徴を調べた。

CLは、物質に電子線を照射した際に生じる発光現象で、物質に内在する構造欠陥や含有する微量元素を鋭敏に検出できる。使用する電子ビームを最小で1μm以下に絞ることができるため、μmオーダーの単一の石英粒子から、欠陥や不純物に関する情報を得ることが可能である。本研究では、岡山理科大学のSEM-CL装置を用いて、それぞれの砂漠から採取された細粒石英粒子(数十〜100粒)について、300〜800 nmの波長範囲のCLスペクトル測定を行った。得られたCLスペクトルは、構造欠陥もしくは不純物に帰属される4〜5つの発光成分によって構成されることがわかった。更に各発光成分の相対強度からは、砂漠毎の傾向の違いが示された。本発表では、砂漠毎の発光成分の違いが、各砂漠周辺のどのような地質学的な特徴を反映しているのか詳しく議論を行いたい。

講演者:東久美子(極地研 准教授)

日時:2013年10月28日(月)16:30-18:00

場所:理学部 1号館 C棟3階 336室

グリーンランド氷床コアによる過去13万年の気候・環境復元

氷床コア解析は、過去の気候・環境変動を高時間分解能で復元するために有効な手段である。現在よりも温暖であった最終間氷期は、地球温暖化が進行した場合のアナロジーとして注目されているが、北半球では最終間氷期を完全にカバーする氷床コアが掘削されていなかった。最終間氷期まで遡る氷床コアを採取するため、2008年~2012年に北グリーンランド氷床深層掘削計画(North Greenland Eemian Ice Drilling:NEEM計画)が実施された。NEEM計画は、デンマークをリーダーとして14カ国が参加した国際共同研究計画で、岩盤まで達する2540mの氷床コアの掘削に成功した。しかし、NEEM計画開始時の予想に反し、NEEMでは岩盤付近で氷の層が褶曲していたため、現在から最終氷期に至るまでの連続した氷を得ることができなかった。そこで、NEEMコアの酸素同位体比や空気の成分の分析結果を、グリーンランドの他の地点や南極で掘削された氷床コアの分析結果と比較することにより、褶曲した氷の各層の年代を推定した。そのようにして、NEEMコアから得られたデータを年代順のデータとしてつなぎあわせた結果、最終間氷期(13万年前~11万5千年前)の大部分は連続した層として保存されていることが明らかになった。NEEMコアの分析により、最終間氷期の気温と氷床高度をほぼ完全に復元することができた(NEEM community members, 2013)。

北グリーンランドでは、最終間氷期が始まったばかりの12万6千年前頃が最も温暖で、気温が現在よりも約8℃±4℃高かったが、その後、気温は徐々に低下した。12万8千年前と12万2千年前の間の6千年間に北グリーンランドの氷床の厚さは400±250m減少した。また、12万2千年前には氷床表面高度が現在よりも130±300m低下していた。12万7千年前から11万8千年前には、現在では殆ど融雪が生じない北グリーンランド内陸部でも、2012年の7月と同様、夏に氷床表面で融解が生じていた。 日本の研究チームは、現在、NEEMコアの気体分析、化学分析、物理分析、微生物分析を実施している。NEEMコアの分析により、現在から最終間氷期に至るまでの気候・環境変動の詳細が明らかになれば、地球温暖化に伴う将来のグリーンランドの気候や氷床の変動の予測に不可欠な情報を得ることができると期待される。