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基盤研究A 数百年~数千年スケールの東アジアモンスーン変動の出現時期、時代変化とその制御要因

科学研究費基盤研究A H28~H30 (2016-2018)

研究代表者: 多田 隆治

概要

研究分野:  環境解析学、環境動態解析

キーワード:  環境変動、アジアモンスーン

研究の背景・目的
掘削地点

本研究計画では、日本海内において偏西風軸を跨ぐように南北に配列した地点で掘削された統合国際深海掘削計画(以下IODP)コア試料の第四紀部分を用い、そこに見られる明暗互層中の有機物含有量や堆積構造から、後述するような手法で東アジア夏季モンスーン(East Asian summer monsoon: 以下EASM)変動を復元すると共に、堆積物から風成塵を抽出してその供給源や粒径、含有量を調べることによって偏西風ジェットの軸位置や強度を復元する。こうした復元を通して、ダンスガード・オシュガーサイクル(Dansgaard-Oeschger Cycle: 以下DOC)と呼ばれる北大西洋における数百~数千年スケールの急激な気候変動とEASM変動の連動がいつ始まったのか、それに偏西風がどう関わってきたのか、氷期-間氷期を通じてDOC、偏西風、EASMの関係は同じだったのか、氷床量やCO2濃度の変化はそれらにどう影響したのか、を明らかにする事を目的とする。

研究の方法
  1. 日本海深部堆積物に見られるcm~mスケールで繰り返す明暗互層がその全堆積期間を通じて南中国における夏季モンスーン降水の変動を反映していたかどうか、そうした変動が、少なくとも過去80万年間を通じて、グリーンランド~北大西洋域において数百年~数千年のタイムスケールで繰り返したDOCと呼ばれる急激な気候変動と連動していたかどうかを明らかにする。
  2. 数百~数千年のタイムスケールで繰り返す急激で大振幅の東アジア夏季モンスーン(EASM)変動が、いつから始まり、その周期や振幅が時代とともにどう変化したのかを明らかにする。
  3. 次に、東アジア上空における亜熱帯偏西風ジェットの軸位置および強度の変動が、いつから始まり、時代とともにどう変化したかを明らかにし、その開始時期や時代変化が、1.で明らかにしたEASM変動とどう関係していたかについて調べる。
  4. 復元された数百年~数千年スケールでのEASM降水および偏西風ジェットの軸位置の変動と、北大西洋で報告されているIce-rafted debris (IRD)の連続記録(Hodell et al., 2008)を比較することで、DOCの発現や伝播に重要な役割を果たしたと言われる北半球氷床崩壊-北大西洋への氷山流出イベントと、偏西風ジェットの経路振動やEASM変動がどのくらい強く連動しているのか、もし3者の発現時期が異なるとすれば、どれが一番先に始まり、どれにどの様に伝播していったのかを明らかにする。
  5. 更に、氷床量や大気中のCO2濃度、その増加速度などの境界条件の違いが、EASMや偏西風ジェットの経路、強度の変動周期や振幅にどの様に影響したのかについて、明らかにする。
期待される成果と意義

本研究により、過去260万年間に渡る南中国での夏季降水量変動、日本海上空における偏西風ジェット軸位置の変動、偏西風ジェットの強さ、ゴビ地域の乾燥度や春先の移動性低気圧の経路や強度、日本列島における降水分布などの時代変化が明らかにされる。そしてその結果を基に、数百~数千年周期でのそれらの変動の振幅や周期、様式と北半球における氷床量、大気中のCO2濃度やその変動速度などの境界条件の関係も明らかにされ、更に副産物として、火山活動度の時代変化、日本海における海洋循環や生物生産の時代変動も復元できると期待される。こうした知見は近未来における極端気象や大規模火山災害の対策を講じる上で有用だろう。

当該研究課題と関連の深い論文・著書
  1. Kubota, Y.,Tada, R., Kimoto, K. Changes in East Asian summer monsoon precipitation during the Holocene based on oxygen isotope mass-balance calculation in the East China Sea. Climate of the Past, (査読有) vol.11, p.265-281, 2015
  2. Zheng, H., Wei, X.,Tada, R., Clift, P.D., Wang, B., Jourdan, F., Wang, P., He, M. Late Oligocene-early Miocene birth of the Taklimakan Desert. Proceedings of the National Academy of Sciences of the U.S.A., (査読有) vol.112 (25) p.7662-7667, 2015
  3. Liu, Q., Sun, Y., Qiang, X., Tada, R., Hu, P., Duan, Z., Jiang, Z., Liu, J., Su, K. Characterizing magnetic mineral assemblages of surface sediments from major Asian dust sources and implications for the Chinese loess magnetism. Earth, Planets, and Space, (査読有) vol. 67, p.1-17, 2015

報告書

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基盤研究S 完新世東アジア水循環変動とグローバルモンスーン

科学研究費基盤研究S H23~H27 (2011-2015)

研究代表者: 多田 隆治

詳細はこちらのサイトへ→ 基盤Sホームページ

概要

研究分野:  地球システム変動学、環境動態解析

キーワード:  東アジア、水循環、モンスーン、完新世、揚子江、水月湖、東シナ海、洪水、ESR

研究の背景・目的

本研究は、東アジア夏季モンスーン[EASM]に伴う降水の強度と空間分布が、どの様に、どの程度変動したか、その究極的支配要因は何かを、海水準やCO2濃度が現在とほぼ同じ完新世中期(5000年前)以降に的を絞って解明する事を目的とする。また、ストームに伴う大規模洪水の発生域や頻度とEASM降水の空間分布の関係も探る。本研究計画は3つのサブプロジェクト1) 揚子江集水域におけるEASM降水空間分布変動と洪水史の復元、2) 南中国におけるEASM降水量変動と黒潮強度変動の関係の探求、3) 東アジアにおける偏西風経路変動と本州日本海側降水変動史復元、から構成される。これらの成果を統合し、世界各大陸のモンスーンの挙動と比較する事により各モンスーンシステム間のリンケージを解明してグローバルモンスーンシステムの実態を明らかにし、その中に東アジア水循環変動を位置づける事を目指す。

研究の方法
  1. 揚子江集水域におけるEASM降水空間分布変動と洪水史の復元に関しては、先ず、現在の揚子江本流域および主要支流域において、堆積物試料、懸濁物試料、水試料の採取・分析を行い、流域別の砕屑物の特徴づけを行うとともに、現在の観測データと併せて、現在の揚子江における水収支、堆積物収支を解明する。
  2. 揚子江河口および洞庭湖(中流域)において掘削を行って完新世中期以降の堆積物を連続採取して砕屑物組成、特に石英のESR(電子スピン共鳴)信号強度を測定し、砕屑物の供給源変動を復元する。そして、1)の結果と併せて、揚子江集水域内における降水分布の時代変動を~10年の時間解像度で明らかにする。
  3. 東シナ海北部から採取されたコアに含まれる浮遊性有孔虫殻のMg/Ca比およびδ18Oを測定することにより、完新世中期以降の夏季における表層塩分(揚子江淡水流出の指標)、水温の時代変動を50年以内の時間解像度で復元し、完新世中期以降の揚子江夏季流出量の時代変動を明らかにする。
  4. また、東シナ海中部においてコアを採取し、それに含まれる生息水深の異なる2種類の浮遊性有孔虫殻についてMg/Ca比およびδ18Oを測定することにより、完新世中期以降の夏季における水温躍層、密度躍層の強さおよび東西勾配の時代変動を50年以内の時間解像度で復元し、その結果を基に黒潮強度の時代変動を明らかにする。
  5. 福井県水月湖において掘削を行って完新世の堆積物の連続採取を行ない、砕屑物中の細粒シルト分画(4-32μm)中の石英のESR信号強度を測定することにより、中国・モンゴル内陸部から飛来する風成塵の供給源変動(タクラマカン起源かゴビ起源か)を完新世の特に中期以降について~10年の時間解像度で復元し、その結果を基に日本上空における偏西風ジェットの軸位置の時代変化を明らかにする。
  6. これらの結果を統合して、特に完新世中期以降について、黒潮強度、東アジア夏季モンスーン降水帯の位置、偏西風ジェットの軸位置の間の関係を数十年以内の時間解像度で明らかにする。
期待される成果と意義

本研究により、数十年~数千年のタイムスケールでのEASM降水の空間分布および強度変動が、どの様な様式、速度、規模で起こったのか、それらとストーム降水の間にはどの様な関係があるのか、更にそれらが偏西風や黒潮の挙動とどういう関係にあるか、が明らかにされると期待される。そして、こうした結果を通じて、EASMがグローバルな気候変動、特に他大陸のモンスーン変動とどうリンクしているか、が明らかにされると期待される。

当該研究課題と関連の深い論文・著書
  1. Tada, R., Onset and evolution of millennial-scale variability in Asian monsoon and its impact on paleoceanography of the Japan Sea, in Clift, P. et al. (eds.) Continent-ocean interactions within east Asian marginal seas, AGU Monograph Series 149, 283-298, 2004.
  2. Kubota, Y., Kimoto, K., Tada, R., Oda, H., Yokoyama, Y., Matsuzaki, H., Variations of East Asian summer monsoon since the last deglaciation based on Mg/Ca and oxygen isotope of planktic foraminifera in the northern East China Sea, Paleoceanography, 25, PA4205, doi:10.1029/2009PA001891, 2010.
  3. Nagashima K., Tada R., Tani A., Sun Y., Isozaki, Y., Toyoda, S., Hasegawa, H. Millennial-scale oscillations of the westerly jet path during the last glacial period, Journal of Asian Earth Sciences, 40, 1214-1220, 2011.

報告書

IODP 乗船後研究委託事業 Exp.346 中新世以降のアジアモンスーンに対する日本海の応答

IODP 乗船後研究委託事業 H26~H28 (2014-2016)

研究代表者: 多田 隆治

IODP

概要

研究分野:  層位・古生物学

キーワード:  層序、日本海、東シナ海

研究の背景・目的

東シナ海北部の夏の表層塩分は、東アジア夏季モンスーンの良い指標であり、日本海北部におけるIRDフラックスや分布は冬季モンスーンの良い指標と考えられている。更に、風成塵供給源の変動は、偏西風の軸の位置、その粒度やフラックスは偏西風強度やアジア内陸部の乾燥度に関する情報を持つと言われている。そこで、それらの変動の相互関係および日本海表層および深層環境の変動との関係を調べることにより、中新世以降の東アジアにおける偏西風軸位置と夏季モンスーンや冬季モンスーンの強度、空間分布、との関係、更にはアジアモンスーンに対する日本海の応答の変遷を明らかにする事を目的とする。

研究の方法
  1. 本研究では、先ずExp. 346において掘削した日本海内7地点、東シナ海2地点について、微化石層序、古地磁気層序、火山灰層序、酸素同位体層序、サイクル層序、OSL年代測定を駆使して、高精度、高解像度な年代モデルを組み上げ、各地点間の正確かつ高解像度の層序対比を確立する。

  2. 微化石とその微量元素組成、同位体比を用いた日本海の表層水環境および深層水環境の変遷復元を行う。
  3. 砕屑物の鉱物、化学、粒度組成を利用した風成塵、周辺河川起源砕屑物、Ice-rafted Debris(IRD)などの供給源分離とその寄与率変動復元を行う。
  4. 浮遊性有孔虫の酸素同位体比およびMg/Ca比を用いた東シナ海北部表層塩分変動復元を行い、それらの時間空間変動を明らかにする

挑戦的萌芽研究 新しい海洋溶存酸素指標の地質時代への応用:日本海堆積物を用いたセリウム同位体比

科学研究費 挑戦的萌芽研究 H26~H27 (2014-2015)

研究代表者: 多田 隆治

概要

研究分野:  層位・古生物学

キーワード:  古環境、地球化学

研究の背景・目的

本研究の目的は 後期更新世の日本海で繰り返し起きた貧酸素海洋からの溶存酸素の増加プロセスをセリウムの同位体比値の増加に基づいて細分評価し当時の日本海で起きた溶存酸素環境変動の過程とそのメカニズムを明らかにすることである

研究の方法
  1. 新鮮な掘削試料堆積物と,続成の進んだ堆積岩に含まれるセリウムの価数と同位体比を測定 し, 両者の比較より,堆積物の続成過程によるセリウムへの影 響を見積もる.
  2. 更新世の日本海掘削試料を明色一日音色の違いや各元素の濃集を参考にして切り分け ,各試料の セリウムの価数と同位体比を測定する (XANES 分析, MC-ICP-MS 分析)
  3. セリウムの価数と同位体比値の経時変化を基に . 後期更新世の日本海海底の溶存酸素環境を 評価し,連携研究者の示すデータと 総合して . 溶存酸素環 境の変動メカニズムと生物への影 響を考察する .
期待される成果と意義

新たな地球化学指標であるCe同位体比を用いて,これまでの指標では表せなかった過去の海洋溶存酸素レベルの酸化的領域を細分して評価することが本研究の特色である.現在の日本海は,溶存酸素に富み,豊かな生態系を保っているが,今後の気候温暖化の傾向は再び無酸素的海洋環境に移行する可能性が指摘されている(Gamo,2011, TrAC) . 本研究により,過去の日本海海底の酸素レベルが増加していく詳細過程を解明し,そのデータを同時期に起きた各事象と比較する,複数回の無酸素海洋から有酸素環境への変動時期の記録を比較することで,日本海において貧酸素な海洋から生態系が回復・維持される最低限度の酸素レベルに達するまでの時間やメカニズムが明らかになると予想される本研究により、過去260万年間に渡る南中国での夏季降水量変動、日本海上空における偏西風ジェット軸位置の変動、偏西風ジェットの強さ、ゴビ地域の乾燥度や春先の移動性低気圧の経路や強度、日本列島における降水分布などの時代変化が明らかにされる。そしてその結果を基に、数百~数千年周期でのそれらの変動の振幅や周期、様式と北半球における氷床量、大気中のCO2濃度やその変動速度などの境界条件の関係も明らかにされ、更に副産物として、火山活動度の時代変化、日本海における海洋循環や生物生産の時代変動も復元できると期待される。こうした知見は近未来における極端気象や大規模火山災害の対策を講じる上で有用だろう。

報告書

近未来予測のための古海洋学: 温暖化に伴う気候モードジャンプの可能性

科学研究費基盤研究S H18~H22 (2006-2010)

研究代表者: 多田 隆治

Mode Jump

概要

研究背景

グリーンランド氷床コアの記録は、最終氷期の気候が複数の不連続的なモードからなり、数百~数千年の周期で温暖なモード(亜間氷期)と寒冷なモード(亜氷期)間でのジャンプを繰り返した事、最終間氷期には現在よりも温暖な気候モードが存在し、現在と同じ、あるいはより寒冷な気候モードとの間でジャンプを繰り返した可能性がある事を示しました(図1)。更にその後の研究で、後氷期にも振幅は小さいが類似した周期の変動が北半球中~高緯度域を中心に存在し、後氷期初頭には現在より暖かい気候モードが存在した可能性が高いことも解って来ました。これは後氷期の気候状態が必ずしも安定ではなく、ちょっとした刺激でモードジャンプが起こる可能性がある事を示唆しています。最近の観測記録によると、温暖化の進行に伴い、地球の気候は人類が未体験のモードに入りつつある可能性があります。こうした近未来の気候変動に迅速かつ適切に対処するには、この未体験モードがどの様なものであり、そこへの移行がどの程度急激なのかを知る事が不可欠です。

私たちはこれまでの研究で、最終氷期に千年スケールで繰り返したダンスガード-オシュガー・サイクル[DOC]と呼ばれる急激な気候変動に同調してアジア・モンスーンが大きく変動した事、その変動が日本上空での偏西風軸の南北振動を伴っていた事、それが偏西風の蛇行モードの変化による可能性がある事、を示してきました。偏西風波動は中~高緯度域の気圧配置と関係する事から、それがDOCに象徴される急激な気候変動の増幅、伝播に重要な役割を果たした可能性があります。私たちはまた、DOCに連動してオホーツク海の水温や塩分、更には北太平洋中層水の流速が変動していた可能性も見出しました。オホーツク海における最近の観測研究は、アジア夏季モンスーンの強度変化がアムール川の流出量変化を引き起こす事、冬季モンスーン風がオホーツク海沿岸部でポリニア(開氷面)を形成し、そこで北太平洋深層水の元となるオホーツク海中層水が形成される事を示しています。この事は、DOCに連動したアジア夏季モンスーン強度変化が、アムール川流出量変動を通じてオホーツク海表層水温や塩分の変動を引き起こした可能性、DOCに連動した冬季モンスーン強度や偏西風蛇行経路の変化がポリニアの形成を通じて北太平洋深層水の生成速度を変化させた可能性を示唆しています。

研究目的と手法

本研究は、東アジア-北西太平洋域を対象に、アジア・モンスーンの変動とそれに伴う偏西風蛇行モードの変化が、DOCに象徴される急激な気候変動の増幅、伝播にどの様に拘っていたかを検証すると共に、その知見を元に間氷期における現在より温暖な気候モードの存在とその実態、制御要因を解明する事をめざしています。その為に、以下の様な具体的目的を設定しました。

  1. 東アジア夏季モンスーン強度、日本海内の(夏季~秋季の)亜極前線位置、アムール川流出量、オホーツク海における(夏季~秋季の)表層水温、塩分の時代変化を最終間氷期以降について復元し、これらの相互関係を明らかにする。
  2. 東アジア冬季モンスーン強度、日本海上空における(冬季~春季の)偏西風軸位置、オホーツク海、ベーリング海における海氷分布、ポリニア形成位置、中層水の形成強度の時代変化を最終氷期以降について復元し、これらの相互関係を明らかにする。更に、オホーツク海やベーリング海における中層水形成と北太平洋中層水の起源および形成強度の関係についても検討する。
  3. 特に最終間氷期および後氷期初頭について、現在よりも温暖な気候モードが存在した可能性を検証すると共に、その実態や、移行速度・移行様式を明らかにし、温暖な気候モードへのジャンプを引き起こすフォーシングやジャンプが起こるための閾値についても解明を目指す。
  4. 1),2),3)の結果を元に、上記の気候・海洋環境指標の相互関係、変動周期、振幅、変動様式が、氷期と間氷期でどう異なったのかを比較検討する事により、急激な気候変動の増幅、伝播機構を解明する。特に、全調査海域におけるポリニアの形成位置や海氷分布、湧昇域分布などを元に、DOCの亜氷期、亜間氷期モードや、現在より温暖な気候モードに対応したシベリア高気圧-アリューシャン低気圧配置の違いの復元を試みる事により、急激な気候変動の増幅、伝播に大気循環が果たす役割を検討する。

こうした具体的目的を達成するために、東シナ海、日本海、十勝沖、オホーツク海、ベーリング海において計20本以上のピストン・コアを採取し(図2)、海域毎に以下のような目標を設定してコアの分析を行ないました。

海域別の個別研究目標
  1. 東シナ海北部: 東シナ海北部の表層水塩分は、揚子江の流出量と負の相関を持つ。そこで、浮遊性有孔虫のd18OとMg/Ca比を組み合わせて表層水温、塩分を推定すると共に、細粒砕屑物の供給源と堆積速度を調べて揚子江の河川流出量を推定する事により、東アジア夏季モンスーン強度の時代変動を復元する。
  2. 日本海中部: 日本海内の亜極前線の位置は、大局的には偏西風の位置を反映する。また、申請者らの研究により、日本海堆積物中の細粒シルト画分は風成塵からなり、中国西方砂漠から偏西風により運搬されたものと、シベリアから冬季モンスーンにより運搬されたものの混合物である事が示されている。そこで、日本海中部では、アルケノン古水温計を用いて緯度方向の表層水温勾配を調べる事により夏季の亜極前線位置(偏西風軸位置を反映)を推定すると共に、風成塵粒度、フラックス、供給源の緯度変化を調べる事により偏西風軸位置を推定し、それらの時代変動を復元する。
  3. 日本海北部: 現在の日本海北西部では、冬季モンスーン風により海氷が形成されると共に、溶存酸素に富んだ深層水(日本海固有水)が形成されている。そこで、日本海北部では、海氷に運搬された細礫(IRDと呼ばれる)の起源やフラックス、分布を調べてそれらの時代変動を復元すると共に、中~深層水の性質に敏感な放散虫化石群集組成や底生有孔虫のd13C比を調べ、深層水の循環速度を推定する事により、冬季モンスーン強度の時代変動を復元する。
  4. オホーツク海: オホーツク海の表層水塩分は、アムール川の流出量を反映していると考えられる。また、冬季モンスーン風により海氷が形成されるが、その形成域であるポリニアの位置は、冬季モンスーン風の風速や風向に支配される。更に、ポリニアでは、海氷形成時の塩分吐き出しによりオホーツク海中層水が形成される。そこで、オホーツク海ではアルケノンを用いて古水温、古塩分を推定すると共に細粒砕屑物の堆積速度を用いてアムール川流出量の時代変動を復元する。また、IRDの起源や分布を調べる事により、ポリニアの位置や海氷分布の時代変動を復元する。更に、放散虫化石群集組成や底生有孔虫のd13C比、粗粒シルト粒子の粒度(底層水流速の指標)を元に中層水形成速流の時代変動を復元する。
  5. 十勝沖: 十勝沖では、放散虫化石群集組成や底生有孔虫のd13C比、粗粒シルト粒子の粒度(底層水流速の指標)などを調べて、北太平洋中層水の起源と速度の時代変化を復元する。
  6. ベーリング海: 現在のベーリング海では、ポリニアの形成は稀で、中深層水の形成も僅かであるが、氷期にはこれが大幅に増加していた可能性が指摘されている。そこで、ベーリング海では、IRDの起源や分布を調べる事によQroject-1.htmljアの位置や海氷分布の時代変動を復元する。更に、放散虫化石群集組成や底生有孔虫のd13C比、粗粒シルト粒子の粒度(底層水流速の指標)を調べ、中層水形成の有無や形成速度の時代変動を復元する。

本研究により現在より温暖な気候モード下での北西太平洋域海洋環境はどの様なものだったのか、そうした状態へのジャンプはどの程度急激であったのか、それらはどのような要因により制御されていたのかを明らかにする事は、進行しつつある地球温暖化が北太平洋域にもたらす海洋環境変化を予測し、それに適切に対処する上で有益な情報を与えるものと期待されます。

報告書

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