進学ガイダンス

2017年度進学ガイダンスパンフレット (4.2M, PDF)

はじめに

私たちは、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻の地球惑星システム科学研究グループです。地球惑星システム科学は、地球惑星科学においてとりわけ魅力的な新しい研究分野である、と私たちは自負しています。若い人が参入し、新たな研究テーマを開拓するのに最適な分野であると考えています。教員は全員研究と教育に情熱をもち、新しい研究分野の開拓や大学院生との共同研究による学問の発展を大いに楽しみにしています。

地球惑星システム科学への招待

地球惑星システム科学って?

地球惑星科学専攻の5つの講座のうちで、「地球惑星システム科学」はあまりなじみのない名前でしょう。他の講座は「大気・海洋」、「宇宙・惑星」、「固体地球」、「生命圏」など、それぞれ名前が研究対象を表わしており、何を研究しているのか具体的です。またそれぞれの講座の母体となっている研究集団は既存の学問分野がベースになっています。ところが「地球惑星システム科学」はその名前からは具体的な研究内容がイメージできません。

地球システム科学には対応する既存の学問分野がありません。これは固有の学会が存在しない、という点に如実に表れています。たとえば、気象学には気象学会、惑星科学には惑星科学会、地震学には地震学会、古生物学には古生物学会、しかし地球惑星システム学会なんて存在しません。これは地球惑星システムという研究分野が今までの学問体系の中に納まりきらないものであること、しかも非常に新しい分野であることを意味しています。またそこを構成するスタッフの出身も地理学、地質学、惑星科学、固体地球物理学と幅広く、研究手法も野外調査、観測、室内実験、分析、計算機シミュレーションと多岐にわたっています。すなわち研究分野・対象・手法において新しいこと、極めて多様であること、これが地球惑星システム学講座を語るときのキーワードです。

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我々の目指しているところ

地球惑星科学で注目する現象はどれも複雑なものです。複雑というのは、現象の原因と結果が明確でないからです。一つの現象を引き起こす原因は一つとは限らず、通常いくつかの要因が複合的に働いています。またいくつかの要因が一つながりに連結して働いて現象を作り出します。さらに原因をさかのぼっていくと、結果である現象に行き着いてしまうことさえあります。このように原因と結果を明確に区別できない現象や複雑なシステムは、「単純さ」を美しいとする従来の物理学の世界では手に余る対象でした。

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複雑な現象やシステムを研究する手法には、現象を各要素に分解し、単純化して原因を探っていく分析的手法と同時に、さまざまな要因の間の相互関係を明らかにし、全体として現象の発現を調べる総合的手法が有効です。地球惑星システム科学はこの「相互関係」に着目し、からまりあった「原因と結果」の糸を解きほぐすのではなく、全体としての働きを理解しようとします。そのためには研究対象や手法を異にする、多様な研究者の集まりが必要です。しかも単に集まっているだけ、というものではなく、日常的に議論をし、相互作用をする有機的な結合の集団です。これによって一つ一つの現象に複眼的視野を確保し、「全体としての働き」を理解できます。

地球惑星システム科学研究グループは、このように多様な研究者の集団に共通の議論の場を作り出すことを目指しています。たとえば、ある研究テーマについて、個々の研究グループが独立して研究を進めるよりも、分野が異なった人たちが顔を合わせて議論をし、互いの結果を対比させながら研究を進めることによって、より深い理解・より大きな進歩が期待できるはずです。このようなことを日常的な研究活動として行える環境作りは、われわれ多様な研究者集団だからこそ可能なのです。

我々はどのような人を求めているのか

地球惑星科学の研究にはいくつもの手法があります。たとえば、火星のことに興味を持ったとします。もっとも直接的な研究手法は、火星探査です。探査装置の開発は物理や工学を駆使した計測器をつくる実験室での仕事です。しかし地球には火星からやって来た隕石があります。実験室で岩石や鉱物の分析を行うことによって、この隕石の成り立ちを調べて火星の歴史や組成を明らかにできます。最近も火星生命体の存在可能性がこの隕石の情報から議論されています。一方、こうした研究からは、火星の成立ちまでは明らかにできません。火星が誕生してから現在までの進化の道筋を研究する必要があります。たとえば、二酸化炭素を主体とする火星大気はどのように火星環境をコントロールしてきたのでしょうか? このような研究をするためには、計算機の中で火星環境を作りだす、計算機シミュレーションが有効です。さらに火星表面には地球上の河川や凍土地形によく似た地形があります。探査機が撮影した画像を解析したり、地球の地形と対比させることによって、このような地形を作り出した環境を推定できます。場合によっては、地球の地形や地質について実際に野外調査を行うことが有効な手段となります。このように、一つの目的に向かってさまざまな研究手法が考えられます。しかも、どれを欠いても、火星に関する完全な理解は得られません。また、これらの研究は独立したものではありません。河川や凍土地形は過去に流水が広く存在していたことを示していますが、大気中の二酸化炭素による温室効果は十分だったのでしょうか? そもそも現在この水はどこにあるのでしょうか? 火星を構成した原材料には水や二酸化炭素は十分含まれていたのでしょうか? すべての問いはお互いに密接に関係しあっています。

私たちがどのような人を大学院入試で求めているのか、これでわかってもらえたでしょうか? さまざまなバックグラウンドや特技・特徴を持った人の参入を望んでいます。大学入試は平均点の世界でしたが、大学院や研究においては各自が自分の特性を最大限発揮することが重要です。そして研究の方向は多様なのです。地球や惑星をシステムとしてとらえ、その形成・進化・安定性・変動・動態などについて研究を行いたいと考えている学生さんを、私たちは大いに歓迎します。また、これまで地球惑星科学が専門ではなかった学生さんも、地球惑星科学に興味を持ち、システム科学的な研究したいと考えているならば、大いに歓迎します。これまで深めてきた物理学、化学、生物学などの知識と経験を大きな武器として最大限生かすことを期待しています。

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